今回は、部下への仕事の「任せる技術」について7つのエッセンスをご紹介します。仕事を「任せる」と「振る」の知っている上司はどれくらいいるでしょうか。上司が大量の仕事を抱えており、誰かに肩代わりをして欲しい。だから「作業」として分割して、部下に渡す。つまり、仕事を「振る」のではなく、「作業」を振っているわけで、上司の一方的な視点で行われていて、ここには「部下育成」の視点があまり見受けられません。そこで今回は、部下への仕事の「任せ方」について、経営者や管理職、上司として知るべき7つのエッセンスを解説していきましょう。

先ずは信頼関係の構築から始めよう

 一般的に、上司は部下の能力を見て仕事を任せるかどうかを判断します。つまり、能力の高い部下に対して、難しい仕事を優先的に任せる傾向にあります。もちろん、能力を見るのは大切ですが、もう一つ重要な要素として上司と部下との間の「信頼関係」があります。上司は、信頼関係を部下としっかり構築し、部下に少し難しい仕事を任せると良いでしょう。その部下の能力が多少物足りなかったとしても、部下は信頼する上司から任されたのだと奮起して、能力以上の成果を出せるよう努力をします。

 逆に、能力はあるが信頼関係が出来ていない部下に、難しい仕事を任せたらどうなるか、というと、「押し付けられた」、「他に急ぎの仕事があるのに」などとなってしまうかもしれません。つまり、上司が仮に「部下の成長のために」と良かれと思って任せたとしても、信頼関係が無いとネガティブに受け取られてしまうことも往々にして起きてしまう場合があります。ですから、先ずは部下との信頼関係を当然のことながら普段から築いていくことに心掛けることが大切となります。

振る」と「任せる」の違いを知ろう

 冒頭にも触れましたが、しばし上司は部下に仕事を与える際に、「振る」という言葉を使います。これは作業を「投げる」のと同義語で、投げられた作業を喜んで引き受ける人はいません。上司は自分の手元にある仕事から作業を切り出して、それを部下に与える、という手順を無意識に踏んでいることがあります。指示された作業ばかりをこなしていても部下は育ちません。成長するには自分の判断が問われる、「自己裁量」と「自己責任」を伴う仕事が欠かせません。
 では、「振る上司」から「任せる上司」に変わるにはどうすればいいのでしょうか。それは、発想の起点を「上司」から「部下」へと180度転換すれば良いのです。具体的には、まず最初に部下の顔を見て、「この部下が成長するにはどのような能力や姿勢が必要なのか?」を考えます。次に自分の手元にある仕事の中からその部下の成長を助ける案件を探し出して渡します。もし、手元にその部下に適する案件がなかったなら、上司自らその部下にふさわしい案件を創り出します。

  場合によって、そのために自分の仕事が増える可能性もありますが、それでも部下の成長を考えた仕事の「任せ方」となります。つまり、これが「部下起点」への発想転換なのです。

■ 「任せるしかない」と腹をくくろう

 上司の仕事は、率先して業務を遂行していくこともありますが、本来すべき仕事は「今日とは違う明日を創り出すこと」と考えます(下図)。例えば、市場の開拓などの”未来の飯の種”をまくことや、会社や部署のビジョンや理念を明確にし、部下と共有すること、あるいは、部下との信頼関係を築き部下を育成することなどがあります。すなわち、「未来への投資」が本来の上司の仕事であると考えます。また、「問題の未然防止」も重要です。これらの仕事は、部下に任せるものではありません。上司はこれらの仕事にこそ、自分の多くの時間を費やす必要があります。
 本来、課長クラスであれば、自分の仕事のうち、5割くらいはこうした「未来への投資」に充てたいところですが、現実的には1〜2割程度ではないでしょうか。その原因の多くは、部下に仕事を任せず、自分で手を動かしてしまっていることにあります。上司が「今日とは違う明日を創り出す」ことに力を注ぐことができなければ、その組織はどんどん疲弊していく一方です。であればなおさら、「部下に仕事を任せるしかない!」と、腹をくくる必要があるのではないでしょうか。

■ 「失敗は部下の特権である」と知ろう

 誰でも失敗はしたくありません。しかし、難易度の高さと喜びの大きさは比例します。人は失敗を恐れるからこそ、一生懸命に努力もします。だからこそ、成功した時の喜びは大きくなります。「失敗」と「成功」、「プレッシャー」と「達成感」は表裏一体。そう考えていくと、失敗するのは部下の特権と考えることもできます。だから上司は「あえて失敗を経験させる」くらいのつもりで、部下にどんどん能力以上の仕事を任せるべきです。”できる”から任せるのではなく、任せられた仕事に合わせて”ストレッチ(延びさせる)”するので、できるようになるのです。ただ、いきなり過負荷をかけてしまうと潰れてしまいますので、部下の力量に応じた仕事を選ぶことも必要です。この場合、下図のような「インフォーマルな仕事」を参考に任せる仕事の難易度を調整してみてはいかがでしょうか。

 「自分のコピー」づくりはやめよう

 上司は得てして「自分のコピー」をつくろうとします。部下のやり方にいちいちコメントをしがちです。特に現場で成功してきた上司ほど、「自分のコピー」をつくりたがる傾向にあります。過去の経験値から自分のやり方がベストだ、と信じていることに起因しています。上司と同じやり方でその部下が成功するとは限りません。プロの野球選手一人ひとりで、バッティングのフォームが少しずつ違うように、部下によってやり方も違ってきて当然です。だからこそ、部下に任せた以上、上司は口出しを必要最低限にとどめた方が良いです。上司が部下のやり方を尊重していることを部下が分かれば、部下は上司の思いを汲んで仕事を進めていくものです。
 部下は最初のうちは、小さな失敗を繰り返すかもしれませんが、試行錯誤の結果、部下が自分に適したやり方を見い出すことができたのなら、上司と部下にとってそれに勝る喜びはありません。

■ 定例ミーティング」を活用しよう

 これまでの解説で「口出しはやめよう」とか、「失敗をさせよう」などありましたが、そればかりでは当然上手くいきません。適切な方法で部下の仕事の進捗状況をモニタリング(確認)が必要で、しかるべき方向へと部下が進んでいくよう助言することも大切です。そのための方法として、「コミュニケーションの定例化」を提案しています。それは「1日1回、週1回」と読んでいますが、部下と1日1回、今日はどんな取り組みだったのか、その中で課題はあったかどうか、など業務日報として書き出してもらいます。それを部内で共有をしていきます。上司は部下の業務日報を見ながら、必要なところだけを部下に確認するようにします。部下自身にもメリットがあります。それは業務日報を書くことで自分の業務の振り返りのきっかけにもなります。また、部下同士で情報を共有することで、お互いに参考になる点もあります。もうひとつの「週1回」は、週に1回のタイミングで面談を実施します。これは先々まで曜日と時間を固めて、スケジュールを定例化しておきます。面談の中身はいわゆるPDCAに沿った内容を聴いていきます。例えば、「次のステップでは何をするつもり?どんな資料を準備する予定?」といった具合に、P(Plan)の内容を確認します。また、「昨日のミーティングはどうだった?何か課題は見つかった?」といった質問で、C(Check)に当たる内容を引き出します。こうした質問を通じて、部下に任せた仕事の検証と、失敗の回避に向けたアドバイスが可能になります。面談のおおよその時間は30分程度で構いません。忙しく場合でも最低15分は確保したいところです。
 部下の主体性を尊重しつつ、仕事の進捗をしっかりとモニタリングをしていきます。コミュニケーションの定例化がそれを可能にしてくれます。

■ 上司という仕事に誇りを持とう

 上司の存在価値は「1+1」をいかに「3以上」に変えていくかにあります。もし1+1=2、つまり2人の部下で2人分の成果しか出せなかったなら、上司の存在価値はないと言っても過言でありません。1+1=3以上にすることで初めて、上司の存在価値が出てきます。ところが、多くの上司は2人の部下で2人分しか成果が出ないと、1.5を出さない部下を責めることがあります。そうではなく、1しか成果を出せない部下に1.5の力を発揮させるのが上司のリーダーシップであり、マネジメント力なのです。
 ときとして、上司はしんどい役割ではありますが、上司として働くことは喜びでもあり、人としての成長にもつながっていきます。

文責 株式会社HRラーニング・サーチ 仲本親司