職場の人間関係でイライラしたり、家族から怒りをぶつけられたり…。最近、私の周りでも「自分のおこりっぽい性格をどうにかしたい」「周囲のいらいらから身を守りたい」という人がふえているように感じます。今回は、近年、話題になっています「アンガーマネジメント」についてご紹介していきます。

現代人はなぜ、イライラしやすくなったのでしょうか?

理由1:価値観の多様化
 以前は、多くの人が同じような価値観を持っていました。例えば、「一生、同じ会社で働く」「年功序列」「結婚はするもの」「子どもは持つもの」など。しかし、今は、どう働いてもいい、結婚はしてもしなくてもいいと、どんな生き方をしても自由という時代。自分と違う価値観を持つ人と付き合う場面が増えたことで、お互いにストレスを感じやすくなっています。

理由2:技術の進歩
 世の中が便利になり、仕事も生活もあらゆるものがスピードアップしています。電車は時間通りに来なければならない、ATMは24時間が当然、商品は翌日配達が当たり前、メールは即返事が来なければいけない……。便利になりすぎたせいで、私たちは不便さに耐えられなくなっています。その結果、少しでも相手の反応が遅れるとイライラすることに。さらに、「すぐに決めなければ」「返事をしなければ」と迫られることも、ストレスになっています。

理由3:ほめる文化への反動
 この十数年、学校でも職場でも「ほめて育てる」ことが推奨されてきました。しかし、人はほめるだけでは伸びません。勇気づけること、励ますこと、時には叱る(怒る)ことも必要です。ほめる文化で育てられると「怒られ耐性」が弱く、仕事で怒られると過剰に反応し、いじけたり、辞めてしまうこともあります。一方、怒る側は、ここ10年で「パワハラ」の概念が広まったこともあり、怒ることを躊躇するようになっています。怒り方は技術なので、怒らなければ上達しません。それでなければならないシーンには直面するので、下手な怒り方をします。すると負のフィードバックが返ってきてますます怒れなくなる、という悪循環に陥っていきます。つい怒ってしまい、落ち込んだり自分を責めたりすることはよくあること。でも、怒ることは悪いことではありません。「必要があれば怒っていい」というのがアンガーマネジメントの基本的な考え方です。とはいえ、感情を爆発させるだけの怒りは、相手を不快にさせるだけ。怒りが起こる仕組を知って上手にコントロールすること、上手に怒るためのテクニックを身につけることが大切です。

アンガーマネジメントとは

 アンガーマネジメントとは、1970年代に米国で生まれた、怒りやイライラの感情と上手に付き合うための心理教育・トレーニング。米国では政治家、ビジネスパーソン、医師や弁護士、教師、プロスポーツ選手などのメンタルトレーニングとして、また家庭内カウンセリングや青少年の情操教育と、幅広い分野で採用されています。

”怒り”が起こる仕組みとは

 怒りが起こる仕組をみていきましょう。例えば、仕事の業務でメールを送ったのに、1日経っても返信が来ない場合。自分は「メールはすぐに返すべきだ」と考えて実行しているので、「いったい何を考えているんだ!」とイライラしてきます。このように自分が信じている価値観「~するべき」「~するべきでない」が裏切られたときに怒りは生まれます。
しかし「~するべき」「~するべきでない」は、人によって違うもの。メールの返信も、「急ぎの用事ではないから、手が空いたら返信をすればいいや」と考えている人もいます。お互いの「べき」は違うと考え、「まあ、1日くらいは待ってみるか」と、相手を受け止めることができればイライラも減っていくのではないでしょうか。

自分の”怒り”をコントロールするには

自分の怒りのクセを知るためにメモを取る
・自分がどんな状況で怒ることが多いのか
・怒ったときに、どういう行動を取っているか
・その行動がどういう結果をもたらすか

怒りのピークは6秒
怒りの感情は、最初の6秒間が一番強いと考えられています。この6秒をやり過ごすことができれば、落ち着きが戻ってきます。カッときてもすぐ反論せずに、少し待ってみることが大切。怒りのメモを取るのも、イライラのピークをやり過ごすのに役立ちます。

怒りは、相手に改善を促す「リクエスト(要望)」
怒りとは「相手へのリクエスト(要望)」と再定義できます。例えば、部下が何度も同じミスをする、子どもが約束を破ったなど、怒るべきときは怒る。その際には、「ここを改善してほしい」ときちんと伝えることが大切です。
世の中には、怒り方が上手な人と、怒り下手な人がいます。怒り上手な人は、上手にリクエスト(要望)が出せる人。怒り下手な人は、感情ばかりが先立ち、リクエスト(要望)を伝えていません。怒り方も技術なので、怒らないでいると上達しません。スポーツや料理と同じように、練習すること。上達のコツを以下にご紹介します。

具体的なリクエスト(要望)を伝える
ただ感情的に怒っても、人間関係が悪くなるだけで、状況は改善しません。怒るときは「こうしてほしい」と、第三者から見てもわかる明確なリクエスト(要望)を出すこと。「心配している」「困っている」「どうしてくれるんだ」など自分の感情が先立つと、怒られた相手は「すみません」としか答えようがありません。

「NG態度」に気をつける
思い込みで怒ったり、感情に任せて怒ったりすれば、相手にはリクエスト(要望)が伝わりにくくなります。こうした悪いクセを直していきましょう。

機嫌で怒る
同じことをしても、ある日は怒り、別の日は怒らないとなると、相手に聞いてもらえなくなる。怒るルールを決め、機嫌ではなくルールで怒ること。

人格を否定する
人格、性格、能力を否定されると、相手は攻撃されたと感じる。怒っていいのは「行動」「振る舞い」「結果」についてだけ。

人前で怒る
相手は見せしめになった、恥をかかされたと感じ、リクエストが届かなくなる。怒るときは一対一、面と向かってが基本。

感情をぶつける
怒る目的はリクエストを伝えること。「反省しろ」「オレの気持ちを理解しろ」でもない。責められたと 感じると相手は防衛体制に入り、逆ギレするか、言い訳に終止する結果に。

怒るときに「NGワード」を使わない
怒るときには、つい「前から思っていた」「いつもそう」という修飾語を付けたくなるもの。こうした言葉は、相手の反感を買ってしまい逆効果です。

過去を引っ張り出す言葉
怒っている本人が、いかに正しいか、いかに怒っているかを強めるために使われる修飾語。相手は「今さら何を言っているのか」「心の中でずっと批判していたのか」と不信感を持つ。怒っていいのは、その場、そのときのことだけ。

責める言葉
過去に起こったことに対する質問になり、相手は責められているように感じる。そうなると、萎縮して「すみません」と言うか、逆ギレするしかない。過去を責めず、「どうすればできる?」と未来を聞くこと。

強い表現
「いつも遅刻する」と言われたら、相手は「いつもじゃないし」と反発し、反省の念は生まれない。「今週2回遅刻したね」と正確に伝えること。

程度言葉
「しっかりやれ」と言うと、相手は「しっかりやってるよ」と素直に聞いてくれない。具体的な数字を挙げるなど、わかりやすい表現に。

怒るべきか、怒らざるべきか

怒ったら「パワハラになるかも」「人間関係が壊れるかも」……と、つい躊躇しがち。それでも怒ったほうがいいか、怒らずに我慢するか、難しい判断です。
迷ったときは「今、怒らなければ後悔するか」を指標にしましょう。「後悔する」なら、覚悟を決めて怒る。そして怒るなら、損得勘定などは持ち込まず、素直に怒ることです。「それほど後悔しない」と思ったことは、しばらく様子を見るといいでしょう。
事故、渋滞、天変地異から、過去の出来事、相手の性格など、怒ったところで変えられないものに対しては、「怒らない」という選択肢も。変えられないことを受け入れるだけでも、イライラを減らすことができます。

相手のイライラから身を守る

いつもイライラしている人や、怒りをぶつけてくる人が周囲にいると精神的に疲れます。人の怒りにのみ込まれずに、上手に付き合うコツを紹介します。  

リクエスト(要望)が何か、考えてみる
何かリクエストがあって怒っているけれど、怒っている本人が今一つわかっていない場合もあります。相手の言葉や態度を観察して、「何を求めているのか」を探ってみましょう。

事実は反省する、それ以外は聞き流す
相手の怒りには、事実と思い込みがごちゃ混ぜになっていることが多いもの。  
「遅刻をした」のは事実でも、「飲み過ぎた」「だらしがない」「社会人失格」は、相手の単なる思い込みです。
自分のミス(事実)については、素直に反省しましょう。事実でないことは、聞く必要がありません。聞かない練習をするうちに受け流すことができるようになり、相手の怒りにのみ込まれなくなります。
家族など身近な相手の場合は、どんなとき、どんなことに対して怒りやすいのか、どんな言葉に反応しやすいか、怒りの兆候は何かなどをよく観察して、パターンを知っておきましょう。怒りそうな状況をつくらない、怒る兆候が見えたらその場を離れるのも手です。

怒りの感情が沸き起こる前にしてみること

1.6秒を心の中で数える
心の中で「いーち、にー、さーん、しー・・・」と数えて、6秒が過ぎるのを待ちます。ただし、イライラしていることを頭で考えながら数を数えても意味がありません。数えることに集中して怒りを頭から切り離すことが大切です。

2.深呼吸をする
まず肺の空気をすべて吐ききったあと、ゆっくりと空気を吸い込み、その後は細く長く空気をゆっくりと吐きます。この動作だけで6秒をやりすごせますし、吐ききる呼吸をすると副交感神経が働いてリラックスモードになります。

3.水を飲む
怒りのあまり、キツイ言葉がでそうになったら、台所や休憩室に行ってコップ一杯の水を飲んでください。水が入っていく感覚に集中してみると、徐々に冷静になっていくはずです。

4.近くにあるモノを見つめる
ペンや携帯やイスなど近くにあるものを観察してみましょう。色、形、大きさ、文字などをじっくりと観察することでイライラから意識を離すことができます。

5.自分の目的を意識する
自分の役割や、なぜここにいるのかという目的を意識するのも、冷静になるのに効果的です。たとえば、会社で部下にイライラしたら「自分はその部下を含めた社員と一緒に会社を盛り立てていくために頑張っている」という目的を意識しなおします。すると、その部下に対してどんな対応をとるのがベストかを冷静に判断することができるようになります。

6.その場を離れる
どうしてもイライラがこみ上げてしまうときは、その場を立ち去りましょう。

文責 株式会社HRラーニング・サーチ 仲本親司