ある調査会社がビジネスパーソン1000人に対して行った調査によると、働く人々のやる気に大きな影響を及ぼす要因として、「ソーシャル・キャピタル(社会関係資本)」の高さが挙げられた。例えば、「互いの意見やアイデアの良い面や可能性に目を向ける」「職場で個々人を超えるアイデアを皆で生み出す」といった項目とやる気との相関が高く、成果とのつながりが見えてきた。
  関係性や活性化というと、これまでどちらかというと職場の潤滑油的に捉えられてきたところもあるかもしれない。しかし、こうした昨今のトレンドをみていくと、職場に豊かな関係性を築いていくことが、高い成果や価値を生み出していく上で、優先順位を高めて本気で取り組むべきテーマであることがわかる。今回は、その職場における関係性を見える化させるツール「リッチピクチャー」をご紹介します。

リッチピクチャーによって関係性を可視化し、育む

  関係性は目に見えづらいものであるため、意図的に高めていくためには、それを可視化する
ことが重要となる。その手段として「リッチピクチャー」がある。リッチピクチャーとは、文字
通り「豊かな絵」であり、職場の関係性を一枚の絵にしていくことで、これまで自分が築いてき
た関係性を振り返るとともに、今後どのように新たな関係性を育んでいくかを俯瞰的に考えるツ
ールとしてよく活用される。

エンゲージメントを高める手段としてリッチピクチャーを活用

  「感・即・動 Vol.21」で「生き生きとした職場を創るエンゲージメント」を紹介しました。エンゲージメントとは、「組織(会社)」と「個人(社員・構成員)」が一体となって、双方の成長に貢献し合う関係」であると定義しています。リッチピクチャーで自分と組織の関係者の関係を描くことで、この”エンゲージメント”を高めることができます。
 ここでもう一度、仕事にエンゲージする、つまり意欲的に取り組むようにするために必要な12の条件(ギャラップ社の提示)を再確認してみるとその条件とは、

1 職場で自分が何を期待されているか知っている
2 仕事を間違いなくこなすための材料や道具をもっている
3 職場で、毎日、自分が最も得意なことをする機会がある
4 この1週間に、職場で良い仕事をしたとして認知されたり称賛を受けたりした
5 上司やその他、職場のだれかが、自分のことを一人の人として気にかけてくれているようだ
6 私が進歩していくのを励ましてくれる人が職場にいる
7 職場で、自分の意見をくんでくれる
8 会社の使命や目的が、自分の仕事は大切だと感じさせてくれる
11 過去6カ月の間に、私の仕事が進歩したと職場の誰かに言われた
12 昨年、仕事で学び成長する機会があった

以上、これらの12の条件を踏まえつつ、リッチピクチャーの描き方を説明します。

リッチピクチャーを描いてみよう

 リッチピクチャーの描き方にもいろいろありますが、ここではシンプルな方法をご紹介します。

ステップ1
まず、自分を中心に置き、周囲に仕事で関わる人を置いていく。

ステップ2
相手から自分に矢印を引く。そして、相手が自分に対して要望していること、期待していること、支援して欲しいことは何か、などを書き出す。

ステップ3
その相手からの要望や期待、支援して欲しいことに応えるために具体的にどんな行動をすれば良いかを書き出す。

ステップ4
今度は、自分から相手に対してどんな貢献(支援、働きかけ、提供できる価値や与えている影響)ができるか、を書き出す。

ステップ5
他のメンバーとも矢印を引き、同様な方法で自分と相手の間で期待されていること/ 貢献できることを書き出す。

ステップ6
全体を俯瞰し、お互いがどういう影響関係にあるか、その関係性を探求する。

リッチピクチャーを描くことで見えてくること

 リッチピクチャーを描いてみることで、多様な気づきが得られる。たとえば、仕事で関わる人々やチームメンバー一人ひとりの特徴をあらためて言語化できるとともに、逆に強みや思いを自分が書けないメンバーがいることを実感できたりもする。「いつも一緒に仕事をしているけど、意外とメンバーのこと知らなかったな……」といった感想とともに、メンバーがどんな思いで仕事に取り組んでいるのかに関心を高めるきっかけになることも多い。

 影響関係の矢印からも発見がある。俯瞰的に線を描いてみることで、関係性ができているところと、できていないところの違いが認識できる。たとえば、上司と個々のメンバーとのつながりはあるのだが、上司以外のメンバーの横同士のつながりがほとんどないような絵になることもある。

 これは形が自転車のタイヤのホイールに似ているので、ホイール型の組織と呼ばれる。ホイール型組織は一見コミュニケーションが良さそうなのだが、上司がすべての情報のやり取りのハブになってしまって、横同士で相互に学び合ったり、自律的に連携したりすることがないので、チームとしての活力は実は低かったりする。自分のコミュニケーションの取り方や仕事の与え方、進め方が、ホイール型の関係性を助長していたのではないかと、マネジャーにとって自省する機会になることもある。
はどうしたらいいか、あるいは指示を与えるだけではなく、メンバーの成長やキャリアにつながるような会話をどのように行えばいいか、というように、一歩踏み込んで豊かな関係性を築くことを探求することにもつながる。

 また、リッチピクチャーは個人で考えることもできるが、チームメンバーと一緒になって、対話しながら描くことで、その価値が大きく高まる。人によって関係性の捉え方や見ている視点が違うので、実は見えないところでチームや職場を支えてくれている人の存在に気づけたり、お互いにどんな支援が望ましいのかをオープンに話し合うことができる。組織によっては、職場内だけではなく、お客さまとの関係性をリッチピクチャーで描き、互いに共有することで、チームとして顧客との接点の頻度や質をどう高めていくのかを検討する機会にしているところもある。
こうしたプロセスを通じて、一部の人だけではなく、チーム全体で豊かな関係性を築いていく意識を生み出すことが、より良いチーム、組織づくりを行っていくうえで重要といえるだろう。関係性の描き方には、正解があるわけではないので、ぜひ気軽にチャレンジしてみてほしい。

リッチピクチャーを描くことで

I. 職場のメンバーの特徴を言語化できる
II. 職場のメンバーについての関心を高めるきっかけとなる
III.職場のメンバーの関係性を認知できる
IV. 自省の機会となる
V. 豊かな関係性を築くことの探求することができる

文責 株式会社HRラーニング・サーチ 仲本親司