株式市場のボラティリティ(変動幅)が高まった理由

まだ記憶に新しい直近で起きた株価の乱高下は為替水準が大きくぶれたからだと思う方が多いようですが、原因は債券市場にありました。債券市場というのは、参加者が機関投資家、海外投資家などほぼプロ投資家で構成されるマーケットなので、一般投資家にはあまり馴染みがないため、その実態は「よくわからない」と感じます。ところが、株価、為替などの値動きに大きな影響を与えている市場なのです。特に黒田日銀金融緩和策以降では。ここ直近の債券市場について、簡単にご説明します。黒田日銀総裁は「長期金利を下げる為に、長期国債までをも日銀は購入していく」と断言しました。(異次元緩和策の一環として)常識的に考えると、国債は日銀が買い上がるので、市場参加者は値上がり確実な債券を購入しはじめるでしょう。当初はそのような動きが当然現れました。長期金利が過去最低の0.315%にまで急落(債券価格は上昇)したのは記憶に新しいでしょう。

しかし、この金利が一気に跳ね上がってしまった(債券価格の急落)為に、経済政策への不安から株価が大きく調整しました。その後の日銀の金融政策を見ますと、この金利急騰に日銀も大慌てだった事
が伺えます。(後述)なぜこのような金利急騰が起きたのか?原因は二つ。1つはメガバンクの利益確定に伴う債券の売りだった事が判明しています。民間ですので、日銀の思惑通りに常に保有するはずもなく、一気に過去最低まで低下した長期国債の水準からすれば、利益を確定する事は必然です。更に2つ目の原因は、流動性リスクによるものです。これはその後の日銀のオペレーションのやり方(後述)を見る限り、彼らの想定を超えたものだったと考えられています。

黒田日銀金融緩和で新たに生まれた「流動性リスク」とは

「流動性リスク」というのは、皮肉にも日銀が市中債券の70%以上を購入するメジャープレイヤーとなってしまったが故に発生したリスクです。市中に出回る債券が少なくなってしまうために、Bid-Askのレート間隔が開きすぎてしまうことが現象としてあらわれました。市中に出回っている物が少ないので大量に債券を保有している金融機関にとっては、買いたい時に買えない、売りたい時に売れない、という不都合が発生してしまったのです(Bid:買値レート-Ask:売値レートが乖離)。そのため、市場での少ない売買で値段が大きく変動してしまう状況になってしまったのです。
更に銀行のリスク管理上の問題で、大きく値段が動いた際には、自動的にポジションを減らさなくてはならないルール(Var:バリューアットリスク)がある為に、あの調整局面では売りが売りを呼ぶ状況になってしまいました。債券の価格が大きく下落して、損失限定の管理上システムから保有債券を手放すのはメガバンクだけではありません。実は地銀も国債を大量に保有しており、彼らはメガバンクほど運用手段を持たない為、国債価格の大幅な下落は、地銀そのものの存続を脅かす事態になりかねないのです。
現在では日銀も政策運営には、金利の乱高下(高いボラティリティ)を注視しているようで、長期国債の1回の買入れ額を小さくするなど、市場との対話を重要視し始めていますが、つまりは、黒田日銀総裁のバズーカ砲は、威勢のよかった会見当初から若干の軌道修正を余儀なくされているということです。アベノミクスの看板政策だった黒田日銀の異次元金融緩和策は、まだ結論付けるにはあまりに早計ではありますが、出鼻をくじかれた格好であることは間違いないでしょう。今後の政策運営は外部環境(米中など)も鑑みて難しい局面が目白押しです。

Kaneco Consulting Firm
代表: 金子 丈次郎
国内外金融機関で営業管理職を経験し、米国ヘッジファンド会社勤務を経て
リーマンショック後の2009年にコンサルタントとして独立。
現在は、現場に密着した営業コンサルタントを中心に活動を行い、
また、経済セミナーや経営セミナー講師として各地に赴いている。