新年度が始まり、新入社員と思われるスーツ姿の若者が街中で見受けられます。皆さまの会社にもこの春から新卒の新入社員が入社されたところもあるかもしれません。今回は、そんな新入社員をどのように受け入れ、育成していくかをテーマに「メンター制度」についてご紹介します。

メンター制度とは?メンターの持つ意味と役割とは?

 「メンター制度」とは新入社員のサポート役を比較的年齢の近い先輩社員が担い、教えたり、悩みの相談に乗ったりすることで職場に適応させるものです。「メンター(Mentor)」は英語で“助言者”などを意味し、助言する先輩社員側がメンター、受ける側の後輩社員を「メンティー(Mentee)」と呼ばれます。
メンター制度の狙いは、新人の早期離職の防止や、コミュニケーションを盛んに行うことによって密接で良い人間関係を形成し、会社を活性化することにあります。
メンターからメンティーには、OJTのような同じ職場の上司や先輩社員から指示や命令があるのではなく、両者の間で交わる対話によって自発的にメンティーに気づきを得て成長していく方法が取られます。

「OJT」と「メンター」の違い

 OJTは、配属された職場で仕事をしながらその業務を学んでいく教育方法です。OJT担当者には、同じ職場の先輩がつくことが多く、いつも近くにいてひとつひとつ仕事を教えていきます。これに対して、メンター(助言者)は職場(同じ部署)の外からメンティーである若手社員を見守り、相談に乗り、メンタル面までケアします。
 OJT担当者がメンターを兼ねる、あるいは同じ職場にメンターを置いてしまうと、関係者であるメンターには相談しにくいこともあるため、OJTとメンター制度の違いを理解してメンターを選ぶことが大事となります。

メンターを配属する目的と効果

1.若手社員の成長と会社への定着
メンターを置くことで、新入社員である若手社員の成長と、会社への定着を図ることができます。メンターは、メンティーの将来の成功した姿、 成功のロールモデルとなることが理想です。メンターはメンティーが頑張れば数年後の到達できるような憧れの存在であるべきです。

2.メンター自身の振り返りと今後のキャリア形成
メンターにとっても、メンティーに関わることは有意義なものとなります。 自分の少し前の姿であるメンティーに向き合うことで、自分自身の成長を実感することができ、新たな気持ちで今後のキャリア形成を考える機会を持てます。

3.人材育成を重視した企業風土の醸成と企業文化の継承
企業にとっても、メンター制度を導入することは有意義なことです。若手社員の成長と定 着はもちろんですが、企業の中の人材育成の重要性を広め、人材を大切に育てる企業風土を作り上げることができます。また、メンターとメンティーの関わりの中で、企業が長年培ってきた企業文化を、若い世代へと継承していくことが可能になります。

メンター制度の基本方針とその特徴

企業におけるメンター制度の多くは、新入社員、入社後数年の若手社員の教育などで特に採用されています。新入社員が配属された後、先輩社員が直属の上司とは違う立場で指導や相談を受けるメンターとなります。メンターは同じ部署の先輩から選ぶ場合もありますが、基本的には、別の部署に所属するメンターの方が適任となります。

どうしてメンター制度は必要なのか

仕事の悩みにじっくり付き合い、メンタルの相談まで心を許して話せるメンターを社内に置くメンター制度。この必要性が認識されたのは以下の3つの理由が挙げられます。

1. 気軽に相談できる同期や身近な先輩がいない
2. 新入社員教育のノウハウが継承されていない
3. 入社3年以内の離職率の増加

メンター制度のメリット

メンティーにとっては、職場の上司や先輩とは違う立場の相談相手がいることはとても心強いものです。業務上の相談だけではなく、メンタル面でも支えてもらえます。また、人事異動があっても、このメンターとメンティーの関係は変わることなく、たとえメンター制度が終わったとしても、長きにわたって続くことも大きな安心となります。

メンターとっては、自分が先輩として支援、援助し、また良いお手本となることで、仕事に対する責任感が強まり、仕事への向き合い方が深まっていきます。メンターとして頼られる存在になることで、会社に貢献している充実感が得られ、その経験は後々の管理職となるときにプラスとなります。

メンター制度のデメリット

メンター制度のデメリットとしては、以下の2つが考えられます。
メンターの負荷が高いメンターである先輩社員に、ある程度の負荷を強いてしまうことです。自分の業務の繁忙期に業務とは直接関係のない部署のメンティーの面倒を見ることは大きな負担となり、また、周りの理解もなかなか得難い場合もあります。

メンティーと職場の上司の関係が悪くなる場合もある。
メンターとメンティーの結びつきが深くなることで、メンティーの直属の上司である管理職との関係がうまくいかなくなる可能性もあります。管理職がメンター制度を理解していれば、命令系統にいない、別の部署の先輩がメンターとしてメンティーを支援することを受け入れることができるでしょう。ただし、メンティー自身がメンターに頼りすぎて、職場の上司や先輩に相談すればいいことまでメンターに頼ってしまうことで問題が起きてしまうこともあります。

メンター制度で重要なのはメンターの育成

メンター制度の成功に重要なのは、メンターの育成です。メンターは未経験の新入社員を、経験者として支援する役目を負います。実務についても経験が求められますが、メンティーとは部署が違う立場が多く、最初からすべてわかっている必要はありません。メンタリングを進めながら、メンターもまた学び、メンティーと共に成長していく姿勢が大切となります。
メンティーの良き相談相手となり、その対話からメンティーに気づきを与え、やる気を引き出せるかがメンターの大きな役目です。自身をロールモデルとして示し、何年後かの目指す目標としてもらい、そうなるためには何をすればいいのかを共に対話の中で見つけ出していきます。

これらのことは、事前にメンター研修を実施して、メンターとしての心構えや基礎知識、対話のスキルなどを学ぶ機会をつくることが大切です。メンター自身が自信を持ってメンタリングができるように人事部などがフォローしなければメンター制度はうまくいきません。また、メンターを引き受けた社員が所属する職場の理解が得られるよう、経営者や人事部としても配慮をしておく必要があります。

メンター制度をスムーに導入するコツ・手段

メンター活動をフォローするツールや仕組みを整備する
メンター活動を充実させるためには、メンターやメンティーが事前研修などでメンター制度への理解を深め、やっていいことと、やってはいけないことなどをりかいさせておく必要があります。メンティーから明かされた情報を、守秘義務を理解せずメンターが勝手に人事部に伝えてしまうなど、トラブルになってしまう問題も聞きます。また、メンターを引き受けることを業務に差しさわりがあると上司がいい顔をしない職場もあるでしょう。メンター制度規定やメンターマニュアルなどを設け、関係者だけでなく、全社的にメンター制度の理解を深めることも必要です。
  
メンター・メンティーが双方に目的意識を持たせる
メンター制度は、メンティーにとってプラスになる制度と考えられがちですが、メンターにとっても、部下の育成など将来関わることになる仕事の基本を学ぶ良い機会となります。メンター制度を開始する際には、メンティーだけでなく、メンターにとっても目標を掲げさせることが大切です。また、人事部としても、メンター制度でのメンターの仕事が通常業務とは別に評価の対象となるような評価方法を考える必要があります。

メンター制度を導入する際に起こりがちな問題と、その対応方法とは

メンターの指導力が弱い
メンターの指導力が弱く、メンター制度が機能しないケースが時としてみられます。このようなとき、人事部としては、メンティーへのヒアリング、メンターへのフィードバック、マニュアルの徹底などで、指導力不足の面を補っていく必要があります。

メンターが忙しすぎて時間をさけない
メンターが本業の方が忙しく、なかなかメンティーと面談ができないことがあります。これについては、月に1回メンターとメンティーが面談する時間を必ず設けることを規定するなど、人事部主導で改善を図ります。
  
メンターによって新人に対する関与度合いが異なる
メンターの性格や仕事の忙しさなどで、メンティーの関与度合いに個人差が出てしまいます。メンティーにとっては、自分のメンターはあまり相談に乗ってくれないのに、同期の仲間のメンターは頻繁に会ってくれていると比べては、自分のメンターに不満を感じる場合もあります。しかし、逆に、あまりしつこくされるのが嫌なメンティーは、面倒見が良すぎるメンターを有難迷惑と感じる
こともあります。これらの不満は相性もあるので、人事部がメンター活動の途中で、個別に面談を実施して聞き取り、個別に対応していくといいでしょう。
  
直属の上司(現場管理者)の理解不足
「メンターなんてやってる暇があれば、業務をやってほしい」「メンターのいうことばかり聞いて、上司の意見は聞かない気か」とそれぞれの上司が、メンター制度についての理解をしていないと、活発なメンター活動に弊害を起こす可能性があります。これについては、社内でメンター制度の重要性の理解を進めていくことが重要です。

最後に、メンター制度は、メンターが熱意をもって取り組み、メンティーに愛情を注ぐことが成功の秘訣といえます。メンター制度への理解をすすめ、人を育てる風土を築いていってください。

文責 株式会社HRラーニング・サーチ 仲本親司