営業部門の管理職は業績を伸ばしながらも、部下の育成もしなくてはなりません。そこで今回は、凡庸な部下をいかに底上げしていくかをテーマに「行動科学マネジメント」についてご紹介します。「行動科学マネジメント」とは、部下に実行してほしい「良い行動」を細かく分析して、どんな部下でもできる「共通言語」で伝えること。かつ、その良い行動を繰り返し実行できるよう工夫することです。

「早期成果」と「部下育成」は相反している

この2つの使命は全く別の時間軸で動いています。業績を早期に上げる「仕事の時間軸」と、部下の育成の「教育の時間軸」があります(図1)。もちろん、ごく一部の勘のいい部下は短期間で習得もできます。

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再現性の高い手法で部下を確実に育てる

一部の優秀と言われる部下に頼るのではなく、「凡庸な部下」の底上げを図ることこそ重要であると考えます。そこで、「すべての結果は行動の集積である」と考えます。つまり、良い結果は良い行動の集積によって生まれ、悪い結果は悪い行動の集積によって生まれます。  行動科学マネジメントの理論においては、人が良い結果を出せずにいるとき、その原因は2つしかありません。1つは、仕事のやり方が分からないというもの。もう1つは、やり方は分かるけれど続け方が分からないというものです。ですから、これらが解決できるよう導けば、どんな部下でも同じように良い結果が出せるのです。

行動の指示は具体的に「MORSの法則」で

行動科学マネジメントでは、あいまいな表現は排除し、誰が見ても聞いても同じように動ける言葉だけを使います。例えば、上司が部下に次のような指示を出したとします。「書類、できるだけ早く提出して」や「A社の部長にはしっかり報告しておけよ」など。このような指示ではあいまいさが見受けられます。「できるだけ早く」とは、いったいいつまでなのか?「しっかり」とは、そもそもどういうことなのか?その感覚は上司と部下とでは認識の乖離が生じてしまいます。

そこで、具体的行動に落とし込むための基準として、「MORSの法則」を活用します。

M: measured(計測できる)   

ある行動がなされていることについて、客観的に何らかの計測が出来る

O: observable(観察できる)   

客観的に行動がされていることが一目瞭然で認識出来る

R: reliable(信頼できる)   

誰が見ても『ある行動」を同じ行動であると評価することが出来る

S: specific(明確化された)   

ある行動が漠然的に表現されるのではなく、より具体的、かつ、詳細に表現されている

先ほどの例を「MORSの法則」で指示を出してみると、図2のように誰もが理解し、行動に移せる具体的な表現になります。

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優秀な部下の行動を観察し、誰でも出来るように分解する

卓越した業績を挙げる部下の実行している一連の仕事に注目し、それを細かい行動に分析をします。分析した後に特に重要な行動を抽出し、それを明確にしていきます。これが「行動分解」です。例えば、営業行動の「新規セールスプロセス」を大きな「行動」で分けると、「事前準備」「リサーチ/アプローチ」「プレゼンテーション」「クロージング」と分けられます。これをさらに分解しますと、「顧客情報の把握」「アポイントを取る」「提案書の準備」「見積書の作成」など構成があります。これをさらに詳細に行動の分解作業をしていきます。下図は細かく分解されたセールスプロセスの「行動分解」し、チェックリスト化したもので、その一部をご紹介します。

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良い行動を持続定着させるために

最後に、どんなに「良い行動」を提示しても、どうやってその行動を部下に持続させるかが課題です。そのためには基本的な手法ですが、「PDCA」サイクルを回し続けることです。そして、そこには”人が継続して行動したくなる仕組みや工夫”が必要となります。部下の行動変容を認知し、褒めることや感謝することなど部下自身がポジティブな思考となり、主体性を発揮できるような言葉や姿勢を見せることが部下の「良い行動」の持続につながっていきます。

文責 株式会社HRラーニング・サーチ 仲本親司