歴史は繰り返す

巷では「そろそろ買い」という声が聞こえてきそうな日本株式市場の急騰ですが、ほっとされている方も多いのでしょう。世界に目を向けても*リスク・オンの状況、株式への資金流入が顕著です。このリスク・オンの流れを最も好感している投資家は、リーマンショックの傷が癒えない世界にある全ての金融機関です。また、日本の個人投資家も、東証の出来高が着実に膨らんでいる状況を見れば一目瞭然で、一気に動意づいているように思えます。これは「我先に」と乗り遅れないように満員電車に飛び乗るサラリーマンさながらですね。
このラッシュ時に飛び乗るのが日本の個人投資家の習性でもあります。いつも不思議に思うのは、こと我が国においては、特に周りと足並みを揃えることが安全であると考える行動心理が、金融投資にあっても作用することです。(毎度のことですが全くもってワークはしていませんが・・(笑))
最近は私もよく市場動向“予測”を聞かれます。マーケットが動いているからだそうですが、マーケットはいつも動いています。ただ、100人が100人とも意識するような動きではないだけです。「今後はこう動く」と断言できるほど将来を見透かせるのは残念ながら神様だけですので、将来動向の当てっこをする占いの類は投資では禁物です。つまりはエコノミストのような回答を期待するようなら本屋へ向かわれることをお勧めするしかございません。従ってこのレポートでは一投資家としての考えをお話ししようと思います。

リスクオンの原因は2点

上昇するにも下落するにも当然ながら理由があります。なんとなく買い手が多くなってきた、というような曖昧模糊とした理由で大きな資金は動きません。今回の世界的な株価上昇の理由は2つ。
①    ユーロ経済に対する懸念材料がギリシャへの協調融資合意で“幾分”緩和された事。
②    米国経済の復調を示す“ような”経済指標発表。
結果として安全資産としての債券や円が売られ、株式や高金利通貨にお金が流れている、ということで説明がつく市場です。

今後は円安に?

ところが、問題はここから。ギリシャは総選挙を控えており、これから国民が強いられる緊縮財政に異を唱える政権発足となれば、またひと波乱起きる可能性は低くありません。そもそもリーマンショックの原因となった爆弾金融商品はいまだ地中に眠ったままなので、相場は目先要因で動くしかないような状況です。これはボラティリティが高いこと(変動幅が大きいこと)や、中東情勢も含めて不確定要因(uncertainty)がいまだ多いこと(この上昇相場に対して皆さんが疑心難儀であることがその証左ですね)から、長期投資の判断はしずらい市場です。ここでちょっとマクロ経済に目を向けて(昔の新聞紙面記事を思い出して)みてください。市場を動かしている目に見えない資金は、実はリーマンショックでばら撒かれたマネーであり、過剰流動資金こそが今の市場を動かしていると考えられます。従って些細なプラス材料に資金が一斉に動く為、プラスにもマイナスにも敏感に反応する市場になっており、プラス材料が出た時には安全資産の円が売られる動きが続きます。米国経済の復調期待からドルも買われています。ファンダメンタルズに必ずしも明確な裏付けがない脆弱なこの上昇相場は、市場にネガティブだった大多数の売り手にとっても予想外の動きであることは間違いありません。泡を食って損失が膨らまないうちにその売り手が無条件に買い手に回って(ショートカバー)上昇に拍車をかけています。従って、逆回りはいつ起きてもおかしくない状況と考えながらマーケットを見ていた方が得策でしょう。「為替が100円の大台に乗る」と仮定しても事業家として市場を見るならば、日本の経済が悪化する中での円安です。どちらにバイアスがかかるかは、必然的と言えるでしょう。今のところ100円という数字は考えるには及ばないと考えております。
とかく、リスクのとれないヘッジファンドなどの短期投資家は、このような時はポジション量を抑えて追随し、マクロ経済の状況を緻密に分析しながら大きくポジションをとる売り時を探してくるものです。薄氷を踏む思いでロングポジションをもって追随していることでしょう。

(文責:金子 丈次郎)

※    リスク・オン・・・外国為替市場では、リーマンショック以降にj為替の変動要因に“リスク・オン”と“リスク・オフ”という言葉が広く使われるようになりました。“リスク・オン”とは、過剰流動(現金・預金)がリスクを取ってリターンを追及する動きになります。逆に、“リスク・オフ”はリスクのある投資先から資金を回収する動きを示します。

※    ロング・・・・・・買い建て

※    ショート・・・  売り建て