日本国債の格下げが意味すること
先日、日本の国債がS&P社評価で、AAからAA-に格下げになりました。この意味するところは、Forward lookingです。確かに国家財政は良くありませんが、ご存知のように日本の借金に対する債権者は殆どが国民であり、所謂、主たる国債購入者は日本の金融機関なのです。この点はヨーロッパ財政危機が叫ばれて問題になっている国々とは異質の状況です。
Forward lookingとは、財政状況対処、政策論議、計画など期するところが他国より劣っているとの判断だという事です。簡単に言えば小沢さんの起訴話題、茶番の国会答弁など全く世界ではニュースになっていません。今回の格下げによって国内居住者である我々は「政治が幼稚」と世界から評価されていると考えるべきでしょう。IMFも日本の政治について言及してきました。今回の国債引き下げについては、私もある方から質問をされるまで意に介しておりませんでした。先日、CNNで格下げについて、日本政府の無為無策、リーダーシップの欠如として夜中に報道されていたのを聞いたに過ぎません。
主たる格付け機関はフィッチ、ムーディーズ、S&Pですが、債券の格付け機関として債券売買をしている機関投資家が重要視するのはフィッチです。今回に限らず、一般的には運用者からみた格下げ後の債券レートの判断ですが、格下げ直後は通常、クレジットリスク(信用リスク)の高まりから、利回りが上昇します。しかし、ある程度利回りが高まると、今度は投資妙味があると見るクレジットリスクをとって運用収益を上げようとする投資家によって債券が買われだします。結局は、落ち着くところで債券価格が保たれ、利回りも安定します。
格下げによる影響は殆どない
今回の日本国債の「格付け報道後」に懸念される事項は殆どないというのが私の考えです。重要な点は国民として生活に影響が出てくるのかという点ですが、現実的には考えにくいです。また、別な側面から考えれば、BBB以下の投資不適格になったわけでもなく、2ノッチ、3ノッチの極端な格下げでもなく、為替も1円程度瞬間的に動いただけで、利回り急騰という面もありません。しいて上げれば、日本の金融機関による資金調達に若干のプレミアムがつくのかなあ~(着かないかもしれません)という程度です。
日本の国債格付けで右往左往するよりは、皆さん「世界で大変なことが起きている」と実感されませんか?例えばエジプトのムバラク政権についてですが、今や政権交代は軍部の最終決断に委ねられているような状況です。欧州危機はまだくすぶった状況ですが、ロンドンインターバンク市場では、リーマンショックで息絶え絶えだった金融機関間の資金貸借が活発化してきました。経済成長が注目されたブラジルと中国の間で貿易摩擦が問題になっています。
むしろ日本の経済に影響を与えるとするならば、国債の格付けではなく、世界的に報道されているニュースの動向次第では副次元的な影響度は高いと考えています。とりわけエジプトの問題によって、投資資金は安全資産に向かい通貨でいえばスイスフランと日本円が買われています。 (金子 丈次郎)
● 金子丈次郎氏の略歴
国内大手証券、米国新聞社、米国資産運用会社、米国ヘッジファンド会社に勤務。現在は一投資家であると同時に、セミナー講師や各種コンサルタントとして活躍中。