糖尿病の男児(7歳)に対して両親とともに適切な治療を受けさせず死亡させたとして自称祈祷師を名のる会社員(60歳)が逮捕された事件を知って、私の頭に浮かんだのは「STAP細胞はあります!」の小保方晴子さんです。自称祈祷師と小保方さんにどんな関連があるか、という話をする前に、精神疾患の人を報道機関がどう取り扱っているかを説明しておきます。

 事件が起きて容疑者が逮捕された際に警察から報道機関にもたらされる情報は容疑者の氏名や職業、住所などです。そこに「通院歴がある」という情報が補足されると、報道機関はその事件の扱いを小さくします。場合によっては報じません。通院歴といっても風邪の治療を受けていたとか虫歯の治療に通っていたとか、そういう話ではありません。ここでいう通院先は精神面の治療をする医療機関を意味します。

精神疾患の人の犯罪に対して日本の刑法は第39条(心神喪失及び心神耗弱)でこう定めています。

1 心神喪失者の行為は、罰しない。

2 心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する。

 精神疾患の人の犯罪に対して報道機関が扱いを小さくしたり報じなかったりする根拠はここにあるのです。

 精神疾患といっても症状の軽重があります。一見して普通の人の言動とほとんど何も変わらない場合、見抜くのは大変難しいでしょう。ましてや、美しい女性やかわいい女性が「大発見をしました!」などと言ってきたら、たいていの男が信じてしまうのは無理からぬことです。

 報道によりますと、冒頭に挙げた自称祈禱師は「龍神」(りゅうじん)と名乗っていたそうです。龍の神。思わず笑ってしまいませんか。常識を持つ大人なら恥ずかしくてこんな名前を名乗りませんし、常識を持つ人なら「龍神」などと名乗る人と距離を置くでしょう。

男児は1型糖尿病でインスリンの投薬治療が必要だったにもかかわらず、自称祈禱師は治療を途中でやめさせ、呪文を唱えたり、ハンバーガーや栄養ドリンクを与え、亡くなる前日には両親にハンバーガーを20個買わせて「家族みんなで食べなさい」などと指示していたそうです。母親が自称祈禱師と知り合いだったことが原因で、両親が自称祈禱師を真っ当かどうか判断する能力を欠いてしまったのでしょうが、普通なら「絶対におかしい」と気づくべきところです。

 自称祈禱師は実名報道されていましたので、刑法第39条に該当する人ではないのでしょう。我が子を思う親がワラにもすがる思いで自称祈禱師に頼った気持ちは分からないではありません。しかし、ワラはワラなのです。変な人と近すぎると、判断力が欠けてしまって、その奇妙さに気づかなくなるのかもしれません。

 世の中にはいろいろな人が普通の顔をして仕事をしています。医療機関に行って医者から診断されなければ病歴はつきません。

「あれ? この人は何か変だぞ」と感じることができるためには、常識があればいいのです。常識さえあればこのような痛ましい被害を防ぐことができたはずです。何か変だなと感じたら、立ち止まって耳を澄ましてみることをお勧めします。

20151212西野ジャーナル