私が勤務していたソニー生命など生命保険業界(特に外資系生保)では、保険のセールスパーソン向け人財開発の分野で必ずと言っていいほど使われてきたキーワード「KASHの法則」。今回は、この「KASHの法則」についてご紹介していきます。

KASH」とは、”カッシュ”と読み、次の英単語の頭文字をとってつけられていましす。

K : Knowledge (知識)
A : Attitude (姿勢)
S : Skill (スキル)
H : Habit (習慣)

セールスパーソン向けですが、どの業界の業種、職種でも読み替えることが出来ますので、研修のプログラム設計の際は、この「KASHの法則」をベースに開発しています。もし、仕事がうまくいかないと感じる時は、この4つのバランスのどこかが崩れていないか、チェックしてみてはいかがでしょうか。

K : Knowledge

「Knowledge」をオックスフォード英語辞典はでは次のように定義されています。

1    経験または教育を通して人が獲得した専門的技能。ある主題についての理論的または実用的な理解。
2    特定分野または一般に知られていること。事実と情報。
3    事実または状況を経験することで得られた認識または知悉

この定義に基づいて、皆様の会社や組織、あるいは、職務で必要とされる「知識」を洗い出してみてはいかがでしょうか。
例えば、研修の中では一般化された以下の項目を紹介しています。

自社の商品、およびその周辺知識を習得している
競合他社や業界全般に関する知識を習得している
経済全般に関する知識を習得している
組織運営、人材育成に関する知識を習得している

そして、「知識は最低限の礼儀」。例えばセールスパーソンが会社にやって来た時、そのセールスパーソンの話が驚くほど下手だったり、質問をしても明確な回答が得られなかったらどう思いますか?次の商談へはなかなか進まないのではないでしょうか。または担当者を換えてとなります。 顧客が差し出す時間への対価として知識が無いのは顧客に失礼となります。新人であっても「最低限の知識」を持ってセールスしていくことが大切です。一方で、ベテランであっても刻々と変化していく環境の中で、常に成長、変化し続けていかなくてはなりません。そのためにも「学習」、すなわち、知識の習得が欠かせないのです。

A: Attitude

「Attitude」とは、態度や心構えのこと。研修では以下の項目を掲げています。

仕(志)事に対する高い姿勢を持っている
お客さまの満足を常に念頭に置き、行動することができる
特に、“おもてなし”の心配りのある接遇態度
お客さまの抱える課題やお悩みの解決に向けて、情熱を傾けることができる

例えば、電話での印象は
しゃべり方:内容=85:15
と言われています。ですから、内容ではなく「声」で判断されてしまうため、電話で話すときは顔を上げてハッキリ言うことが大事なわけです。スキルと思われますが、先ずは相手のことを思い図りながら(気配り、心配り)話す必要があるという意味では、「Attitude」が備わっての「Skill」となります。
同様に、対面での会話(特に初対面)においても印象は重要です。以前、「感・即・動 Vol.16 プレゼンテーションの知識」の中で”メラビアンの法則”では、コミュニケーションの3要素を次のように紹介しました。

ボディランゲージ(身振り手振り、表情や服装など):55%
ボーカル(声の抑揚やスピードなどの話し方):38%
バーバル(話の内容、言葉)7%

このことからも分かるように、いかにうまく話すかの前に、いかに良い印象を与えられるか、つまり、相手にとってどのように感じていただけるかに集中することが重要となります。

S: Skill

「Skill」とは、技術のこと。専門的な技術はもちろんですが、経営者や管理職など職種や役割、立場で求められるスキ
ルが様々で沢山あります。何れのスキルも最後に”できる”ことが付きます。研修では以下の項目をセールス向けに掲げて
います。

商品の販売手法を実践することができる
顧客に対して分かりやすいプレゼンテーションができ、適切なコンサルティングを行い、強固な信頼関係を構築できる
組織において最適なマネジメントやリーダーシップを行うことができ、また、部下や後輩へコーチングなど
 を行うことができる
「話す・聴く・訊く」などコミュニケーション

第3のステップは「信頼関係の強化」で、自社の商品やサービスから顧客の課題にどんな解決策が提案できるか検討を行います。そのうえで創造的かつ複合的な解決策を提案することができれば、信頼関係は強まっていくことができます。       

そして、最後のステップが「長期的な信頼関係の構築」です。ここで重要なのは中長期的な戦略シナリオを立てていくことです。社内外のリソースをフルに活用し、組織をあげて顧客とのパートナーシップを確立に向けてシナリオを実行していきます。

H: Habit

「Habit」とは習慣のこと。実はこの「KASH」の中で最も難しく重要な項目がこの「Habit(習慣)」です。これまで数え切れないくらいの研修を運営してきましたが、その多くの受講者が研修終了後、”大変役に立った”とか”目から鱗が取れました”などのコメントを頂きました。しかし、研修はあくまでも行動変容のきっかけ(糸口)にしかありません。折角、時間とお金をかけても学習した知識(Knowledge)やスキル(Skill)、そして、姿勢(Attitude)もそれぞれが身について定着、進展していかなくては無駄になってしまいます。そうならないためにも、この「Habit(習慣化)」が鍵となります。

  自らの業務活動を、継続的に実践していく
 ■ 主体的に知識やスキルの習得を図り、これを習慣化をしていく

最後に

 私たちはプロである以上はどんな状況でもやり抜く強い意志が必要です。モチベーションに左右されるようではまだまだアマのしるしであると理解しましょう。
種を蒔いているから成果が出てきます。種を蒔く作業、これ自体は難しいことではありませんが、これをやり続けることは簡単ではありません。すなわち、「知識」を学び続け、「技術」を習得し続け、「姿勢」を持ち続けることこそが、「人財開発」の秘訣であると考えます。どんなに「知識」があっても、その「知識」を伝える術(すべ)を持っていなければ伝えられません。逆に伝える術(すべ)があってもそもそもの「知識」が十分でないとこれも意味がありません。そして、どんなに「知識」や「スキル」があっても、相手のことを思う「姿勢」がないと、望む結果や成果につながりません。
 下図にありますように「KASH」を風車に例えるならば、「Knowledge(知識)」、「Attitude(姿勢)」、「Skill(スキル)」、「Habit(習慣)」はそれぞれが風車の羽根です。どれ一つもでも無かったり、大きさが均等でなかったならば、歪な回り方になってしまいます。

 研修では参加者同士でグループワークを行い、自社の「KASH」を洗い出し、整理をして現場感覚での”目指すありたい社員像”を描き、その姿になるための具体的なアクションプラン(行動計画)を立てていく内容で運営しています。
皆様の会社や組織で、一度、時間をかけて自社の「KASH」を探求してみてはいかがでしょうか。

文責 株式会社HRラーニング・サーチ 仲本親司