精神疾患で労災認定される従業員をださないために

1 マスコミが取り上げる『うつ』

一昨年4月29日の日曜日午後9時、ゴールデンタイムのNHKで放送されたのが、NHKスペシャル「職場を襲う“新型うつ”」という番組でした。その後の6月、今度はYAHOOのインターネットニュースで、「頑張れない時もある-職場のうつ、人ごとじゃない」と題して30代が職場のうつで悩んでいるという内容が取り上げられました
さらに同じ月に東洋経済新報社から「人ごとではないうつ・不眠 予防・治療法&つき合い方」と題した特集雑誌が発行されるなど精神疾患に関する情報が注目されています。
なぜ今、うつをはじめとする精神疾患に関する情報が続々と取り上げられているのでしょうか。

2 心の問題は労務管理上の重要課題

残念な現実ですが、日本は自殺者の多い国です。平成10年から日本の年間自殺者数は年間3万人を突破、平成23年まで継続して3万人を突破し続けるという異常事態が発生しています。また、平成23年の自殺者のうち、26.8%に当たる8,207人が会社で働く人達で、自殺の原因や動機が明らかなもののうち、2,689人がその原因として勤務問題をあげています。
会社で働くことが原因で精神疾患を患う、自殺してしまう、今、従業員を取り巻く心の問題が会社の労務管理を語る上で欠かせない重要な取組み課題の一つになっているといっても過言ではありません。

3 精神疾患に対する認識の誤り

考えてみれば、以前は精神疾患を患って会社を休むというケースは特殊なケースというイメージがありました。どこか精神的に弱い人が病気になるもの、という精神疾患に対する社会の認識の誤りがあったのです。しかしそのような間違いを正すべく「うつは心の風邪」と表現した啓発活動が展開され、精神疾患は誰でもかかりうる病気であり、決して個人の性格や考え方によるものだけではないという認識が広がってきました。それと同時に精神疾患で病院の門をたたくことは、もはや隠さなければならない出来事ではなくなったのです。
どんな病気も早期発見・早期治療が重要であるように、精神疾患についても、まずは医療機関で受診することが推奨されるようになり、本人も病気であることをオープンにしやすくなったと言えるでしょう。

4 精神疾患が労災認定される現代

このような背景も手伝って、従業員が精神疾患を患って会社を休むというケースが増加しています。それにつれて会社における従業員の心の健康(メンタルヘルス)に関する問題が注目され、ニュースで取り上げられたり雑誌や書籍が発行されたりという時代の流れになったのです。
そしてもう一つ、見逃せない大きな動きがありました。一昨年12月、厚生労働省が“心理的負荷による精神障害の労災認定基準”を策定したのです。これは、うつ病などの精神疾患になった従業員が労災申請してきた場合、どのようなケースを労災認定すべきか判断するための基準です。
従業員の精神疾患が労災認定されるという現実は、精神疾患の原因を個人的な問題とだけ認識していたのでは、とても受け入れられる話ではないでしょう。時代の流れと共に労務管理も変わっていきます。従業員のメンタルへルスは対処療法ではなく、予防として従業員満足(ES)を向上させていくことが企業にとって重要な取り組みとなってきているのです。

文責:Grow社会保険労務士事務所  代表 磯部 和代


ESとは
「Employee Satisfactio」の略で“従業員満足”と訳されます。従業員が満足を感じるような環境を会社の戦略として積極的に整備し支援することを言います。
企業業績を向上させるためにはCS「Customer Satisfaction:顧客満足度」が最も重要な要因であることは広く知られていますが、その「CS」に深く結びついているのが「ES」です。
企業価値を高めるためには、従業員の満足度を高める必要があります。