■■ 意欲なく仕事嫌いな従業員9割も。世界23万人調査
”彼(彼女)は仕事が好きではない?” と思っている経営者は多いかもしれません。しかし、そう感じている経営者は皆様だけではありません。ワシントンDCに拠点をおく世論調査会社、ギャラップ社が2013年に発表した大規模な調査結果(“State of the Global Workplace”)によると、世界中で、意欲も積極性も持たず、他人の足を引っ張る従業員は、仕事に愛着があり、意欲を持っている従業員の倍も存在すると分かりました。
1990年代終わり頃から、ギャラップ社は世界の被雇用者の満足度を調査してきました。これまでに、189カ国、2500万人の被雇用者の調査を実施。今回発表された調査では、142カ国、23万人のフルタイム、パートタイムの従業員の情報が集められました。
総合的にみると、意欲があり積極的に仕事に取り組む(注:英語でエンゲージド「engaged」)従業員はわずか13%だったことが、ギャラップ社の調査で明らかになっています。「エンゲージド」するとは、仕事への情熱を感じ、雇用する側と固い絆があって、日々、新しいことを考え、会社をさらに前進させようと過ごしているという状態のことです。
大部分の約63%は意欲がない(注:「not engaged」)としている。幸せとは 言いがたいが、ひどく不幸というわけでもない従業員のことです。つまり、こうした人たちは、 気持ちが仕事から離れており、彼らはなんとなくダラダラと日々を過ごし、仕事にほとんどエネルギーを傾けない、状態です。
24%が、ギャラップ社が定義する「意欲を持とうとしない(注:「actively disengaged)」従業員、つまり仕事をかなり嫌っている人たちです。仕事が嫌いであることを隠さず、さらに同僚の成果をも台無しにしたりもしています。「意欲がない」「意欲を持とうとしない」を合わせると、世界の労働者の87%に達しています。
ギャラップ社の調査はこうした人々を「気持ちが職場から離れていて、生産的であろうとしない」と診ています。言い換えると、世界の労働者の9割近くにとって、仕事は達成感ではなくフラストレーションの源になっていると推測できます。これは、ほとんどの職場は本来もっている能力よりも生産性が高くなく、安全でもなく、雇用者は新しい仕事を作り出せずにいることを意味しているのではないでしょうか。
■■ 仕事に”意欲的”に取り組むようにするための12の条件
仕事にエンゲージする、つまり意欲的に取り組むようにするために必要な12の条件を、ギャラップ社が提示しています。その条件とは、
1 職場で自分が何を期待されているか知っている
2 仕事を間違いなくこなすための材料や道具をもっている
3 職場で、毎日、自分が最も得意なことをする機会がある
4 この1週間に、職場で良い仕事をしたとして認知されたり称賛を受けたりした
5 上司やその他、職場のだれかが、自分のことを一人の人として気にかけてくれているようだ
6 私が進歩していくのを励ましてくれる人が職場にいる
7 職場で、自分の意見をくんでくれる
8 会社の使命や目的が、自分の仕事は大切だと感じさせてくれる
9 同僚たちは質の高い仕事をしようと努力している
10 職場に仲の良い友人がいる
11 過去6カ月の間に、私の仕事が進歩したと職場の誰かに言われた
12 昨年、仕事で学び成長する機会があった
*「意欲があり積極的に取り組んでいる=幸せ」、「意欲がない、気持ちが離れている=あまり幸せではない」、「意欲を持とうとしない、仕事が嫌い=まったく幸せではないあるいは不幸」と言い換える) |
仕事をするうえで幸せを感じる意欲ある従業員の割合が最低だったのは東アジア地域で、全体でわずか6%となっていました。この数字は中国の結果でもあり、中国では、仕事で幸せだと感じる従業員がわずか6%だったようです。約68%は仕事から気持ちが離れていて、26%はひどく不幸だとしています。
日本の結果というと、日本にはもっと幸せを感じている従業員が多いのではないかと思っていましたが、結果は7%。中国をわずか1ポイント上回っただけとなっていました。69%は意欲がなく、24%は仕事が嫌いとなっていました。
不幸せな従業員への確かな処方箋は、前に挙げた12か条に集約されると考えます。従業員とのコミュニケーションを図り、何を期待しているかを伝え、よい成果が上がったら褒めて、さらに前進させるために励ますことが大切です。必要な道具を与え、チャレンジしていると感じられる機会を用意するのも従業員の働く意欲を高めています。
■■ 社員と組織の関係性を高める「エンゲージメント」
エンゲージメントを辞書で引きますと、
【Engagement】
-固い約束、契約
-婚約
-歯車のかみ合っている状態
【Engage】
-引き込む、巻き込む、関係する
人材開発や組織活性化の分野ではこのエンンゲージメントを次のように定義しています。
エンゲージメントとは、「組織(会社)」と「個人(社員・構成員)」が一体となって、双方の成長に貢献し合う関係」を言い、エンゲージメントを高めることで個人の働きがいと意欲を強めることができます。
そこで、エンゲージメントが高い人というのは、「自分の成長や働きがいを高めることは組織の価値を高める」という捉え方に基づいて仕事をし、それを実感している状態。また、「組織が成長することが、自分の成長や働きがいを高める」という捉え方に基づいて仕事をし、それを実感している状態を言います。
■■ 「エンゲージメント」の度合いを現す3つの要因
エンゲージメントは、次の3つの要因のいずれかが高いと強まりす。
貢献感:周囲の人、組織・社会に貢献できている、組織の将来のこと
を考えて行動しているという感覚
適合感:この組織は魅力的だ、自分に合っている、自分らしい場所だ
という感覚
仲間意識:仕事や損得を離れても付き合っていける仲間が組織にいる
組織の人たちとの関係をずっと保ちたい、価値観を共有で
■■ エンゲージメントが注目されている背景
なぜ、ここ数年、エンゲージメントが注目されてきたのか、その背景は大きく3つあります。
1. 組織と人の信頼関係が希薄になってきている
・この厳しい経済状況の中で、雇用への不安から会社への信頼感が失われている
・組織のビジョンやバリューが浸透しておらず、一体感が醸成されていない
2. 従業員の間に見えない壁がある
・職務・雇用形態・部署などの立場によって壁があり、他責的になっている
・立場や属性を超えた本音の話し合い、ナレッジの還流、協力が起こらない
3. 従業員がやらされ感で働いている
・従業員が指示待ちになりがちで、モチベーションが低い
・チャレンジ精神や主体性が発揮されにくく、全体的にやらされ感がある
以上の点から、多くの企業ではエンゲージメントを高めるための研修や取り組みが行われています。
■■ エンゲージメントについて「仕事」、「場」、「人」の3つの切り口で整理
エンゲージメントについて、もう少し分かりやすく理解するために「仕事」、「場(職場)」、「人」の3つの観点から、そのつながり方や結びつき、状態を整理してみましょう。
エンゲージメントが高い人
組織の中で、自分らしく活き活きと働いていて、自分の持っている力を余すところなく発揮し、成長し続けています。
状況をポジティブに受け止め、解釈する・・・
主体性が高く、自分ができること、貢献できることを探す・・・
感受性が高く、変化を察知する、成長が早い・・・
パフォーマンスがどんどん向上する・・・
ポジティブにかかわる、協力的・・・
エンゲージメントが低い人
働きがい・幸せ感・コミットメントが低いため、成長スピードが遅く、業績が向上しません。
受け身で状況を捉える・・・
同じ過ちを繰り返す、のろのろ・・・
感受性が低く、変化を察知しない、成長が遅い・・・
パフォーマンスは一定、または下がる・・・
ネガティブにかかわる、他罰的傾向・・・
エンゲージメントが高い組織
強みを活かし合い、弱みを補完し合う
互いに学び合い、貢献し合う
役割やルールに縛られず、柔軟に連携・協力する
必要と感じた人が声をかけ合い、アクティビティが高い
エンゲージメントが低い組織
役割・ルール(古いしきたり)に従おうとする
うまくいかないとき、上司や他部署のせいにして、自己を正当化する
うまくいったとき、自分の手柄にする
弱みや欠点を指摘し合い評論家的、アクティビティが低い
今年に入ってから、いくつかの会社から全社会議の場で半日くらいの時間でワークショップを行って欲しいとの依頼がありました。そのワークショップでは、「チームビルディング」や「より良い会社を創る」などをテーマとしており、今回、ご紹介した「エンゲージメント」の分野でもあります。経営者や管理職が中心となってこのエンゲージメントを推進していくのではなく、社員全員で取り組んでいくことが重要な鍵となるのではないでしょうか。
まずは、今、会社の中で先にご紹介しました「仕事に意欲的に取り組むようにするための12の条件」が自社でどれくらい整っているのかをチェックしてみてはいかがでしょうか。
文責 株式会社HRラーニング・サーチ 仲本親司