(1)初めに
私達が受給を受ける年金は、予定利回りで概ね確定しています。そのため年金の受取金額のみに注意が払われますが、今回は受給する年金の運用機関について触れていきます。「日本年金機構」とは、年金の加入や年金受給の手続等の管理業務を担う別織となります。
(2)定義
「年金積立金管理運用独立行政法人」(以下Government Pension Investment Fund 「GPIF」)とは、厚生年金と国民年金の積立金の運用・管理業務を行う厚生労働省所管の独立行政法人です。長期的な観点から世界の資本市場に投資し、その収益を国庫に納付することにより、年金財政の安定に貢献する組織です。23年3月末時点の運用資産は200兆円に達し、世界最大規模の機関投資家で、国内外の投資家から「くじら」と呼ばれることもあります。
(3)運用機関とファンド数
運用受託機関(運用会社と信託銀行)は国内外38社で、ファンド数(証券投資信託)は154本に及びます。運用資産は、委託先の信託銀行名義となっているので投資先の株主名簿には「GPIF」が記載されることはありません。運用手法・運用委託機関ごとの過去5年間の収益率も公表されており、運用内容の透明性は高いと言えます。
(4)主たる運用方法
資産構成(=ポートフォリオ)は、「GPIF」の前身である年金福祉事業団の時代から2009年までの長きに渡り、国内債券67%・国内株式11%・外国債券8%・外国株式9%・短期資金5%と債券中心(≒国債)の運用で、市場リスクを最小限に抑えることを主眼に置いていました。しかしバブル崩壊後は低金利時代が続き、国債中心の運用では資産の積み上げが困難となりました。その後、10年掛けてポートフォリオを運用利回りの向上のため、現行の各資産25%ずつの配分に切り替えてきました。2023年の運用実績は国内株式50兆33百億円、国内債券55兆6百億円、外国株式49兆98百億円、外国債券50兆12百億円とほぼ25%ずつとなっています。国内株式の直接保有の投資銘柄は2,312社に達し、日本市場における最大の株主でもあります。
(5)運用状況
2001年の市場運用開始以来、収益率年平均は+3.99%です。直近の2023年度第3四半期の収益率は+2.62%でした。運用状況もHP上で毎年春に更新されています。また、運用銘柄については国内債券(約4,000銘柄)・外国債券(約4,000銘柄)・国内株式(約2,400銘柄)・外国株式(約3,200銘柄)に分散投資しており、これらの個別銘柄についてもHPで公表しています。ちなみに、国内株式のプライム市場は1,658社・スタンダード市場は619社・グロース市場554社に上り、上場株式(3,831銘柄)のうち62%が投資対象となっています。
(6)オルタナティブ資産の運用
「オルタナティブ資産」とは、伝統的な投資対象資産である上場株式や債券に対する代替的な投資資産(インフラストラクチャー、プライベート・エクイティ(PE)、不動産等)の総称です。インフラストラクチャーとは、再生エネルギ-・パイプライン・鉄道・通信等を指し、10年以上の長期投資です。プライベート・エクイティ(PE)とは、非上場の株式を投資対象とします。様々なステージにある投資対象企業を発掘し投資を実行します。不動産は、物流施設・オフィス・賃貸住宅・商業施設の実物不動産への投資と私募不動産投資信託への投資に大別され、いずれも賃貸収入を得ます。伝統的資産に比して流動性が低い一方、利回りが高いことから超過プレミアムが期待できます。2013年から投資を開始し2023年現在で2兆83百億円(年金積立金全体の1.38%)に達しています。2022年から「GPIF」によるインフラ・PE・不動産を投資対象とする投資事業有限責任組合(LPS)に出資する運用方法も採用しています。
(7)ESG投資
「ESG」とは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の英語の頭文字を合わせた言葉です。「GPIF」が運用する年金積立金は、将来の現役世代の保険料負担の軽減するために使われます。また、世代をまたぐ投資家という特性を持つGPIFが長期的に安定した収益を獲得するためには、投資先の個々の企業価値が長期的に高まり、資本市場全体の持続的安定的な成長が不可欠です。一方で、資本市場も環境問題や社会問題の影響を受けざるを得ません。従って、投資のこれまでの判断材料であるキャッシュフローや利益率等の定量的な財務情報に加えて、気候変動、水資源、生物多様性、ダイバーシテイ、サプライチェーン、取締役会の構成、少数株主保護等を考慮する投資行動が求められます。
≪さざえ堂(会津若松)≫
会津さざえ堂は、1796年飯盛山に建立された高さ16.5mの六角三層のお堂です。正式名称は「円通三匝堂(えんつうさんそうどう)」と呼びます。二重らせんのスロープに沿って西国三十三観音像が安置され、参拝者はお堂をお参りすることで三十三観音参りができるお堂でした。神仏分離令により明治にお寺が廃寺され、三十三観音像は取り外されました。小学校の修学旅行以来53年振りの訪問となりました。