何が市場を動かしたのか? 誰が最初に動いたのか?

安倍政権が行う経済対策(アベノミクス)への期待から、株式の上昇と円安トレンドが継続しています。久しぶりに見たリーマンショック以前の株価は感慨深いものがありましたね。かつて勤務していたヘッジファンドの頃の記憶が蘇ってきました。こんな時、彼らはどのような目線で投資を考えるのだろうかと。。。
思えば安倍首相は総選挙前から日銀法改正にまで言及していました。賛否両論はあるにせよ「断固たる金融緩和政策」という彼の発言がこうした動きをつくるきっかけとなったことは確かです。戦国武将毛利元就が書いた「三子教訓状」を引き合いにした3本の矢の中身は解説するまでもありませんが、①大胆な金融政策、②機動的な財政出動、そして③積極的な成長戦略という3つの経済政策はすべてデフレ脱却における代表的な経済政策です。
しかも黒田日銀総裁による金融政策発表に対するマーケットの反応は異常でした。それにしてもここまで変動すると(期待されていた)と考えると、「いったい今までの日銀は何をしていたのか」と憤慨する人も多いでしょう。恐らくコントロールできなくなるインフレを懸念し、国債発行後に裏で買い戻していただけのことなのです。リーマンショック以降の先進国で、紙幣を増やさなかったのは日本だけでしたので(つまり市場に出回る円が少ない)、いままでの円高は当然だったということです。
さて、今回日銀はマネタリーベースで円を増やすことを基本に、2%のインフレターゲットを設定しました。この具体的な数値を“目標化した事”こそが市場参加者(初動の殆どは外国人投資家)が急激に動いた理由に他なりません。少々解説しますと、「物価上昇率が2%に到達するまで円を刷り捲る」ということなのです。国内投資家はとかく考えがちですが、この言葉の意味にそれ以上もそれ以下もありません。政府は建設国債を発行し日銀が買いオペでそれを市場から吸い上げる。結果的に市場に大量の円を流通させる。

もう少し平たく言いますと、インフレ率(金利)が2%になるまでは、“必ず”日銀は債券を買い上げるのですから、国債市場参加者は日本国債の値上がりを期待してというよりは、確実に値上がりする国債を買わないわけがないのです。(金利は低下)

債券の仕組みとインフレターゲット

従って今や日本国債史上空前の低金利に突入してきています。つまり金融政策だけではインフレ(金利の上昇)は起きないということは債券の仕組みで考えれば当然のこと。 
2%の目標どころか、市場参加者が債券を買いまくってくれば、金利はどんどん下がってきてしまうのです。
ところが、ばらまかれた円の行先によっては達成可能となります。これが財政政策による莫大なインフラ整備に伴う民間刺激策です。国内で最も雇用の裾野が広い建設関係に資金が回り、需要換気のトリガーを引く、そして③本目の矢にあたる「成長戦略」によって具体的に需要喚起を引き起こしインフレ誘導する、というのが今回の経済政策の大枠のシナリオです。
まだ具体的にどのように需要喚起をするのか、今後の焦点(争点?)となりそうなとろではありますが、今のところはうまくアナウンス効果(期待値)が奏功しています。

大量に刷られた“円“も、いずれは投資妙味を求めて世界を動く。

しかし、あまり国内のメディアでは報道されていない気になる点を1つ申し上げておきましょう。実はイタリアの国債金利が4%を切ってきているのを皆さんはご存知でしょうか?3月には約5%あったイタリア国債金利が急落しているのです。恐らくは欧州で破綻リスクの少ない高金利国債はこれから上昇していく兆候があります(既に上昇していますが。)あの危なっかしいユーロになんで?と思われる方も多いかと思いますが、欧州情勢はECBが国債を買い付けるようになったことで、今のところひとまずは落ち着いています。
従って、高金利を目指して大きな資金が欧州に向かっているということが考えられるのです。 日本からの資金が多いという話もあるのですよ。確実に債券価格が上昇する市場とはいえ日本の国債を買っても収益的には欧州のそれに比べれば投資妙味は無いに等しいでしょう。
3本目の矢を射るタイミングが遅くなると、せっかく国内でバラ撒かれた円も海外に逃げるようなことが起こらないとは限らないのです。 まだ船出をしたばかり、悲観するようなことではありませんが、“アベノリスク”の存在がゼロになったわけではないということだけは認識しておかないと、“投資も会社経営もいきなり梯子を外されてしまう”ということになり兼ねません。バランスシート管理は個人も企業も同じです。かつて大量に抱えた企業の(個人の)資産が一気に収縮した為に、今迄の資産価値に比べて借金が過度に積みあがってしまったバブル時代を思い出してみる良い機会かもしれません。