今回の「感・即・動」は、近年、リッツ・カールトンホテルやディズニー・リゾートなどでよ く言われているホスピタリティを取り上げてみたいと思います。ホスピタリティは日本語で“おも てなし”と訳して使いますが、何となくわかるようではっきりわからないのではないでしょうか。 そこで、ここでは、「心配り」と置き換えてみました。

感情(快・不快)の発生のメカニズム

はじめに自分が相手に「心配り」をする前に、普段、どのようにして感情が湧き起るのかを見てみ ましょう。自分の言動が相手の感情にどのような影響を及ぼすかを理解するには、感情の発生するメ カニズムを理解することが大切です。図1のように、最初に人は「事象」を認識します。そして、そ の「事象」に対して「スキーマ」と呼ばれる自分のこれまでの経験や持っている知識から既有のもの の見方や考え方に基づき、その「事象」をどのように「解釈」したかで、発生する感情は決まってき ます。
では、ここでは、不快の感情が発生する例をあげてみます。

事 象  ~お店に入っても挨拶がない
スキーマ ~お客がお店に入ってきたらきちんと挨拶をするべきだ
解 釈  ~接客態度がこのお店はできていない
感 情  ~このお店は感じが悪い

このプロセスを人は一瞬のうちに行っています。

01_08_1私たちは、この感情(快・不快)の発生の一連のメカニズムの流れを、自分の頭の中で再現し、相手の感情(快・不快)を推測することが大切になります。

「心配り」ための5つのステップ

「心配り」について、一般的な思考のプロセスは5つのステップになっています。     
    
ステップ1 : 事象認識
最初に必要なのは、事象を認識すること。別の言い方をすると、考察の対象として意識するとです。図2の例で言えば、「今日は寒いらしい」ということを認識することから始まります。

ステップ2 : 影響判断
次のステップは、その事象に関して、それが誰にどのような影響(快や不快)をもたらす のかを推測、ないしは予測することです。例で言えば、「来社されるお客様はきっと体が 冷えていることだろう。」と容易に予測できます。

ステップ3 : 目標設定
しかし、その影響(事態)が仮に予測できたとしても、それで何かしようと思うかどうか は、その人の思考のあり方にかかっています。行動するためには、相手の不快の除去や軽 減、あるいは快を創出するという、利他的な目標設定を頭の中で行うことが必要です。  例で言うと、「体が冷えているお客様の状態(不快)を解消する」ことを目標として設定 することが、ここで実行されねばなりません。

ステップ4 : 施策考案
この目標設定を受け、私たちの頭はそれを実現するための施策を考案しようとします。 「熱いコーヒーをすぐに差し上げる」とか、「部屋の温度を少し高くして差し上げる」 など色々と考えます。そして、実現可能な施策の中で、有効性が高いと思われる最適な施 策を選択します。

ステップ5 : 実行
そして、これでもまだ思考は完了していません。施策を実行するか否かも、実は思考の結 果なのです。頭では「そうした方がいいな」と思っていながらも、面倒だから実際には事 をなさないことは日常の中にはよくあります。そうした方向に向かわせず、自分を実行へ と導く思考ができるかどうかが問われるのです。

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まとめ  

「心配り」に代表される対人関係能力は、非常に重要です。他人に存在を認められ、適切な評価をされる関係が構築されて、人の有能性は初めて意味を持ちます。そうした特別な関係をつくり出す、あるいは持続していくために、対人関係能力は必要不可欠となります。「心配り」は、別の言い 方をすれば「気働き」とも言えます。つまり、気持ちを働かせることです。この「心配り」や「気働き」は、これまで説明してきたように訓練に よって強化することができます。
いきなり、“おもてなし”をしましょうと言ってもなかなか難しいでしょう。 まずは、「目配り」をしっかり行うことで事象を認識し、「気配り」によって影響判断します。そして、「心配り」することで目標設定や施策考案 をし、実行していくことが大切です。

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