最近新聞広告やネットで、赤字で書かれた“おくるしあわせ”という文字が目立ちます。元信託銀行勤務者として、信託商品を積極的に宣伝していることが気になりましたので商品内容をきちっと確認させていただきました。

①商品の特性
おくるしあわせは、三菱UFJ信託銀行の金融商品です。三菱UFJ信託銀行に預金を預けて、これを誰にいくら贈与するか毎年指示を出すと、信託銀行はその指示に従って資金を送金します。送金金額は贈与税の非課税枠内で、信託期間は5年から30年までの任意の期間を選択できます。

②ターゲットはどのような層か?
相続税の増税改正を契機として、非課税枠内での贈与が注目されています。ところで、贈与は、受贈者と贈与者との合意が必要で、最低限『贈与証書』を作成して双方の合意があることを示す必要があります。遠方に住んでいると文書のやり取りも面倒になりがちです。事務処理を信託銀行に任せたいとお考えの方には、この商品が向いています。

③管理コストはいくらか?
信託銀行は、年1回送金金額の確認を行い指定口座へ送金し、『贈与証書』を送付するだけです。従って、事務コストはさほど要しません。ただ、手数料を別途支払う手間も考えて、預けた財産を信託銀行が運用し、その運用益を管理コストに充当する仕組みとなっています。

④契約期間はどの程度設定されるのか?
前述の通り、信託契約期間は最低5年から最長は30年までです。贈与期間から信託期間を決めますが、判断を要する金融商品は将来の制度変更も踏まえて10年を目途とします。

⑤受贈者(贈与を受ける者)は三菱UFJ信託に口座を開設する必要があるのか?
受け取る方は、ご自身が日常使用している口座への振込みで構いません。大都市にしか支店がないので、口座を限定すると商品力を削ぐ結果となります。

⑥万一の場合はどのような取扱いとなるのか?
お客様に贈与に係る判断能力がなくなった場合には、贈与信託としての機能を失うため中途解約します。
信託財産の全てを贈与した場合は、信託契約が終了します。

⑦他の信託銀行や銀行は同様の商品を用意していないのか?
予めお客様の指示に基づいて送金する行為は、信託銀行しかできない法律行為です。他の信託銀行は、『暦年贈与信託』単体では収益性に乏しいため、現時点では追随する様子は見られません。ただ、信託銀行はメガバンクや地方銀行と異なり、店舗数が少なく一般に馴染みがないため、入口となる商品が求められます。
また、『教育資金贈与信託』の使途を拡張する『子育て資金贈与信託』の法制化も準備されているので、これらを呼び込むための商品としての位置付けも考えられます。

⑧最後に
仮に、当職がまだ信託銀行に在職していたならば、この手の商品を設計していたでしょうね。委託者から信託銀行への指図によって、安全でかつ確実な資金異動ができ、幅広いお客様にご利用いただける商品特性があるからです。